不動産取引の専門家として、日々お客様に理想の住まいを提案し、重要事項説明書を読み上げる。そんな華やかな職業に就きながら、私自身の私生活は、玄関のドアを開けることさえ躊躇われるほどのゴミ屋敷と化していました。30代という働き盛りの時期、宅建士としてのキャリアを積み上げる中で、私はいつしか心の均衡を失っていたのです。きっかけは、大規模な再開発案件の担当になり、連日の残業と厳しいノルマに追われたことでした。朝から晩まで土地の境界確定や抵当権の抹消手続き、権利関係の整理に奔走し、帰宅するのは常に深夜。食事はコンビニの弁当で済ませ、空いた容器を片付ける気力さえ残っていませんでした。最初は小さなゴミの山でしたが、宅建業法を遵守し、細かな契約書類を完璧に仕上げるという仕事上の緊張感の反動か、プライベートな空間では一切の規律を保つことができなくなったのです。気がつけば、床は見えなくなり、専門書や法令集、そして山積みのペットボトルが足の踏み場を奪っていました。宅建士として「建物が受ける構造的ダメージ」や「不衛生な環境がもたらす資産価値の低下」を誰よりも理解しているはずなのに、自分自身の居住環境が腐敗していくのを止めることができませんでした。不衛生な環境は次第に私の精神を蝕み、休日もゴミに囲まれて眠るだけの生活に陥りました。ある日、仕事中に重要事項説明をしながら、自分が説明している「清潔で安全な住環境」と、自分の家との乖離に激しい吐き気を催しました。それが転機となり、私は自らの意志で専門の清掃業者に依頼することに決めたのです。清掃が完了し、本来の床が見えたとき、私は宅建士としてだけでなく、一人の人間として再出発する決意を固めました。この経験を通じて、私は住まいが単なる資産ではなく、人の心を支える基盤であることを痛感しました。今では、ゴミ屋敷問題を抱えるお客様に対しても、単なる事務的な対応ではなく、その背後にある心の苦しみに寄り添った提案ができるようになり、私のキャリアに新しい深みが加わったと感じています。
30代の宅建士が経験した自室のゴミ屋敷化と再出発の記録